『江戸前期製作絵巻の国文学的研究』は、平成15年度から平成17年度にわたる、江戸前期製作絵巻の基礎的研究の成果をまとめたものである。科学研究費補助金は、日本各地の図書館・美術館・博物館に所蔵される江戸前期製作絵巻類の調査と撮影に主に使用された。その調査を基礎資料として、各地の江戸前期製作絵巻類を比較した。すると、江戸前期製作絵巻の中に、同じ筆跡を有するものが相当数存在することが明らかになった。江戸前期製作絵巻は、詞書きを書く人間が署名することがきわめて少ないために、その筆跡が誰のものであるのかを決めることは難しい。しかし、私が日本文学作品が記された写本等と比較した結果、奈良絵本と同様に、浅井了意と朝倉重賢が江戸前期製作絵巻の詞書きを書いていることが判明した。それ以外にも、奈良絵本・絵巻の筆者は存在しているが、名前までは明らかにできなかった。これらの研究により、江戸前期製作絵巻が、絵草紙屋を中心に製作されていた様子が具体的に明らかになった。本書は、それらの成果として、私が個別に発表した論文を集成したものである。まだ、調査が途中のものもあるが、江戸前期製作絵巻の筆跡による分類は、完成しつつある。奈良絵本・絵巻には、まだ調査が行われていないものも多数存在している。今後も、さらに調査地を増やし、さらには新たな奈良絵本・絵巻の存在を確認して、奈良絵本・絵巻の基礎的な分類を行い、研究を発展させたいと考えている。
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