研究概要 |
この研究は,地方の人形浄瑠璃のかしらを資料として,かしらの方面から人形浄瑠璃の発生と展開について考察することを目的としている。今年度は今まで未調査だった千葉県の平群人形と谷頭人形等の調査を行った。いずれもうなづき形式は小猿式が主流で,以前に提出したうなづき形式の前後関係に関する仮説に反するような事例は見当たらず,より確実性を持ったといえよう。 また,以前から人形芝居の発生に関わる宗教的存在として人形三番叟を重要視し,その基本的表現やかしらの特徴,人形式三番の成立の問題を考察してきたが,その結果人形三番叟は,(1)踏む動作,(2)赤色の彩色,(3)表情変化(笑いの表情から返り目・口開というからくりによる威嚇の表情へ),(4)偃歯棒式という最も初期段階の上を向くうなづき形式を持つ,ということが判明した。これは日本における人形及び人形戯の根本・起源を物語るものであろう。今年度は,この日本の宗教的人形及びその人形戯が日本独自のものなのか,それとも外来のものなのかという問題を考えるために外国の事例と比較を行うために中国の串人形(国内個人蔵)の調査を開始した。中国の人形調査はまだごく少数ながら現時点で比較すると,(1)から(3)の特徴は知る限り中国の人形にも事例が見られるが,(4)のうなづき形式は中国の人形にあまり見られなかった。日本の人形はうなづき形式を何段階にも渡ってより写実的に繊細に表現できるよう発展させるが,中国の人形はそうではない。うなづき形式は日本人が考え出した日本の人形芝居の特徴であり,ひいては日本文化の特徴をも示すものではないか,との仮説に至った(平成17年11月26日神奈川大学21世紀COEプログラム第一回国際シンポジウムにて発表「人形に見る身体技法-日中の比較から-」)。今後は更にアジアの人形調査を進めていきたい。
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