1.7〜8世紀の日本で書写された仏典・漢籍・国書に関する、書誌を中心とするデータベースの構築 本年度も継続して、展示図録類からの書誌情報の入力を行った。表紙・紐・軸などの原装丁を残す古代巻子本の所在情報の概要を知ることができた。またこのデータベースの作成を通じて界線の規格に時代的変化があることが明らかになった。 2.1のデータベースに基づく、原装丁を残す古代巻子本の表紙・紐・軸・料紙などについての原本調査 (1)先行研究において、奈良朝写経の原装丁を残す遺品とされた大東急記念文庫蔵『大方広仏華厳経』巻第三十について、小村眞理氏(元興寺文化財研究所)の協力を得ながら原本調査を行った。この経巻が奈良時代後期の原表紙・原発装・原軸を極めて良い状態で保存する貴重なものであり、またその細く薄く、反りのない発装や、表紙と本紙、本紙と本紙の極めて狭い糊代による継ぎが、奈良時代後期の経巻の志向したものを知る上で重要な手懸かりを与えるものであることが明らかになった。しかし、小村氏の鑑定により、原装とされてきた組紐は奈良時代のものではなく、14世紀以降のものである可能性があることが判明した。奈良朝写経に組紐が用いられていたかどうかについて根本的な見直しが必要となった。 (2)国書の現存する最古の写本である、奈良国立博物館蔵『日本書紀』巻第十(田中本)の原本調査を行った。この写本が、料紙の質、書風、界線の規格において、奈良時代的なものを残しながら、平安時代的なものへと踏み出たものであることが具体的に明らかになった。その他の一群の平安初期の写本とともに、国家的な事業として漢籍・国書の書写が行われたことも推測された。 3.敦煌写本の装丁についての原本調査 古代日本の巻子本の形式についての手懸かりを得るべく、原装丁を残す敦煌写本の原本調査を行った。大英図書館の所蔵する敦煌写本において、紐には主に平織の布を袋状にしたものが用いられていることが判明した。また表紙の大きさやその端の処理の仕方、紐の取り付け方にいくつかのパターンがあることがわかった。
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