1.7〜8世紀の日本で書写された仏典・漢籍・国書に関する、書誌を中心とするデータベースの構築 本年度も継続して、展示図録類からの書誌情報の入力を行った。表紙・紐・軸などの原装丁を残す古代巻子本の所在情報を明らかにした。今後、田中塊堂氏『日本古写経現存目録』、『奈良朝写経』、『週刊朝日百科 日本の国宝』および展示図録類に収載されていない巻子本の装丁についての情報を収集することが課題となる。 2.1のデータベースに基づく、原装丁を残す古代巻子本の表紙・紐・軸・料紙などについての原本調査 1のデータに基づき、(1)奈良朝前期、(2)奈良朝中期、(3)奈良朝後期の、原装丁を残す代表的巻子本を選び出した。今後さらに詳細な調査を行い、7〜8世紀の巻子本の装丁の変化を体系的に捉える予定である。 3.『大日本古文書』所収の古代文書に記載された巻子本の書誌のデータベース化 (1)平成16年度の調査によって、7〜8世紀の日本の古代巻子本で原紐を残ものが殆ど存在しないことが明らかになった。これに替わる資料として、「正倉院文書」等の古代文書に数多く記された巻子本の書誌情報を料紙・表紙・紐・軸の4項目に整理し、一覧表とした。 (2)紐は「綺」「綺緒」「綺帯」あるいは「緒」と記され、特に装飾性を意識したと思われるものに、「斑綺」「緑斑綺」「辺青中既紫緒」などがあった(紐の色には、青・緑・紫・緋・白・橡など)。「綺」「綺緒」「綺帯」の実体は明らかではないが、「極く細い平打ちの紐状」(関根真隆氏『奈良朝服飾の研究』)であった可能性が高く、繰り返し披見するための耐久性よりも、装飾性を重視したものであったことが窺われた。 4.敦煌写本および敦煌出土染織品についての調査 大英図書館所蔵の敦煌写本の装丁についての調査を継続して行い、その比較材料としてのビクトリア・アンド・アルバート美術館所蔵の染織品についての調査も行った。現存する敦煌写本の紐が、8〜10世に、繰り返し披見することを前提に後補された、地方色の強いものである可能性が高いことがわかった。
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