軍記物語の特徴は、複雑で多様な諸本を持つ作品が多いところにある。『太平記』においては、100点近い写本と15種類の古活字本、20種類の整版本が存在している。これまでその分類は鈴木登美恵氏による「四分類法」に従ってきたが、近年、新たな伝本が発見されたり、伝本研究そのものの進展が見られ、再検討が必要となっている。 本研究では、そうした課題に取り組むため、『太平記』諸本の書誌学的・文献学的調査を総合的に進めてきた。まず、従来、未紹介・未研究の伝本の調査を精力的に推し進め、その結果、島津家本・群馬県立歴史博物館本・土佐山内家宝資料館本等の発見・紹介を行った。また、主要伝本の本文研究にも力を注ぎ、永和本・神宮徴古館本・島津家本などの主要な古態本の本文の性格を明らかにした。 また、諸本中極めて特異な本文を持つ京大本については、その本文をデータベース化し、現在、本文校訂を行い、多くの人に有効活用してもらえるような公開方法について検討している。
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