本年度は、平成15年度の継続調査として、神奈川県立金沢文庫・真福寺宝生院文庫・東大寺図書館に蔵される南都関係唱導文献について調査・収集し、さらに猿投神社・勧修寺・慶應義塾大学斯道文庫にも調査の範囲を広げた。 継続調査の内容として、神奈川県立金沢文庫保管称名寺聖教については、東大寺弁暁草の中から南都焼亡後の復興事業と関わる唱導文献を収集し分析した上で、軍記・語り物研究会例会シンポジウム「南都復興をめぐる言説と平家物語-唱導・勧進・歴史認識-」において、研究分担者である横内裕人氏とともに研究成果を発表報告した。その際の発表題目は各々以下の通りである。近本「南都復興の勧進をめぐる唱導と言説-東大寺・興福寺における緇素の連繋-」、横内「東大寺の再生と重源の勧進-内乱・結縁・唱導-」。 真福寺宝生院文庫については新資料の発見に努めると同時に、東大寺『東南院御前聖教目録』の内容分析を通じて、中世前期から南北朝期における東大寺内の聖教伝存の状況について把握した。 東大寺図書館については、興福寺僧貞慶と関わりを有すると思われる唱導資料について文献収集を進める作業を通じて、中世前期の南都唱導の実態を窺わせる資料を見出すとともに、『讃佛乗抄』の笠置関係記事について、原典に立ち返って書写状況を把握した。 猿投神社・勧修寺・慶應義塾大学斯道文庫の各所蔵典籍についても南都関連の唱導文献の調査収集を行い、複数の重要な典籍を見出した。これらの内容分析については、次年度の課題としたい。 また、これまでの調査から得られた知見をもとに、巡礼記研究会第1回研究集会において、近本「治承の南都回禄をめぐる"うごき"」と題する報告を行った。
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