本研究の実施計画には2つのポイント、即ち(その1)『東瀛詩選』の基礎的研究である本文研究のうち本文の校訂及び電子化テキストの作成と、(その2)収録詩人の評伝、『東瀛詩選』の編纂の意図、日中両国の文化交流史的研究などの文学史的研究である。本年度は(その1)基礎的研究の後半にあたり、以下のことを行った。 (『東瀛詩選』の基礎的研究のうち電子化テキスト作成) (1)『東瀛詩選』の電子化テキストの作成を、佐野正巳編『東瀛詩選』影印本によって進め、基本的電子化テキストをテキストファイルで全巻作成完了した。 (『東瀛詩選』の基礎的研究のうち出典調査と本文校異) (2)『東瀛詩選』に採録された漢詩作品の出典となる漢詩集の本文との校異のための基本調査を前年度に引き続き継続した。影印公刊されている漢詩集以外のものについては、版本等所蔵の図書館で資料収集することとし、本文調査を行った。それらは、得斎詩文鈔、丹生樵歌、南山外集、桂林遺稿、縁山詩叢等の数十作品である。『東瀛詩選』の撰者が直接資料とした版そのものであるかどうかは、特定できないが、公刊された版本であることから、まず同内容のものと考えてよいとみなし校合をすすめた。これらに、影印公刊されている別集の資料との校異を加えて、本年度には全体5000余首のうち約3分の2の校異を終え、電子化テキストにこれを加えた。 (『東瀛詩選』の基礎的研究成果の日本漢詩表現研究への利用) (3)電子化テキストは全体が完成したので、日本漢詩の表現研究の一環として用例の時代性を念頭におきながら本朝麗藻注釈などの注釈研究に引き続き利用した。 (『東瀛詩選』に関わる周辺の課題) (4)『東瀛詩選』収録詩人の伝記研究として『東瀛詩記』の分析を行った。また成立に関わる日本側の人物調査として北方心泉関連資料の調査を石川県金沢市常福寺で行った。 (5)『東瀛詩選』編纂の前後の影響関係等についての考察のために、江戸期及び明治期の漢詩総集についての資料調査を開始し次年度研究の準備とした。
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