本研究の実施計画には2つのポイント、即ち『東瀛詩選』の基礎的研究である本文研究のうち本文の校訂及び電子化テキストの作成と、収録詩人の評伝、『東瀛詩選』の編纂の意図、日中両国の文化交流史的研究などの文学史的研究がある。本年度は、文学史的研究の前半にあたるが、一部基礎的研究の補充も併せて、以下のことを行った。 (『東瀛詩選』の基礎的研究の補充) 1.『東瀛詩選』に採録された漢詩作品の出典となる漢詩集の本文との校異のための基礎調査を前年度に引き続き継続し、もとになった漢詩集を特定し本文校異調査を行った。また『東瀛詩選』漢詩本文について一字索引稿を作成した。 (『東瀛詩選』の文学史的研究のうちの収録詩人の評伝部分についての研究) 2.『東瀛詩選』の収録詩人のうち、別集に基づくものについては、編者は、各詩人の小伝を付してあることが多い。その小伝について、編者が参考としたと考えられる資料(例えば『先哲叢談』など)との比較を通して、編者独自の見解の部分を見極めることなどの作業を通して、『東瀛詩選』における詩人評伝の有りようを検討した。 (『東瀛詩選』の文学史的研究のうちの編纂経緯についての研究) 3.『東瀛詩選』の編纂には、日本側の企画者と、中国側の編者がある。またその間で、仲介に与った人物に北方心泉がある。彼の伝記的研究及び作品集の読みを通して、北方心泉と編者兪〓の交遊の実態を明らかにし、『東瀛詩選』の編纂経緯を考察した。(この成果は平成18年1月14日金沢市ふるさと偉人館で「北方心泉の漢詩」と題して講演発表した。) (『東瀛詩選』の基礎的研究成果の日本漢詩表現研究への利用) 4.作成した『東瀛詩選』の電子化テキストを用いて、引き続き日本漢詩の表現研究の一環として用例の時代性を念頭におきながら本朝麗藻注釈などの注釈研究に利用した。 (『東瀛詩選』に関わる周辺の課題) 5.『東瀛詩選』に入集する詩人の動向ついての考察のために、『海外観風詩集』や『新撰名家詩集』などの漢詩総集についての資料調査を開始し、次年度研究の準備とした。
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