琉球・沖縄文学研究は日本文化の在り様をも照射する重要な研究と位置付けられる。その総合的研究のためには、文学資料のみならず、琉球船漂流記録・地誌・近世末物産学資料・明治期新聞資料・漢詩文資料・茶会記録など広範な視野に立った資料活用が不可欠である。従来、焼土と化した歴史が影響して、沖縄県内の残存資料ばかりが重要視されがちであったが、県外のコレクションにも有益な関連資料が少なくない。 平成16年度は、前年度に引き続き、土佐藩などの琉球船漂流記録について原本調査を行った。『土佐清水浦琉球船漂着聞書』や『琉球船漂着記』などである。これらの記録は藩によって行われた詳細な取調べに基づき、琉球の風俗・学芸などの文学活動や庶民生活にまで言及しているため、琉球文化を立体的に伝える一級資料と言って良い。同時に、記録者の関心の在処を知り得る最適の資料でもある。このほか、琉球物と呼ばれる近世後期版本、例えば『琉球状』や『琉球談』などを調査した。一方、岩瀬文庫には江戸末期の博物資料が多数所蔵されているが、その中に琉球物産に関わる重要資料も含まれることが判明し、その調査研究に着手した。また、原本の調査に限定せず、古書や紙焼による資料収集を行った。『大琉球島探検航海記』『琉球歌物語』『袋中上人余光』等々である。琉球風俗と関連深い月次風俗資料をも視野に入れるよう努めた結果、それらと密接に関わる文様や色名に関する研究へと発展したが、これは古典籍全般の書誌研究へもつながる成果であったと思われる。 以上、これまでに蓄積したデータと照合しつつ、今後はより詳細な調査記録の完成を目指したい。
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