琉球・沖縄文学研究は日本文化の在り様をも照射する重要な研究と位置付けられる。その総合的研究のためには、文学資料のみならず、琉球船漂流記録・地誌・近世末物産学資料・明治期新聞資料・漢詩文資料・茶会記録など広範な視野に立った資料活用が不可欠である。従来、焼土と化した歴史が影響して、沖縄県内の残存資料ばかりが重要視されがちであったが、県外のコレクションにも有益な関連資料が少なくない。 平成17年度は、継続して土佐藩や大洲藩などに伝えられた琉球船漂流記録を始め、東洋文庫、成城大学柳田文庫その他、関東近郊の文庫に所蔵されるいわゆる「琉球物」と通称される近世版本の類について原本調査を行った。『大島筆記』『土佐清水裏琉球船漂着聞書』『琉球船漂着』『孤島漂流記』『漂流記』『喜安日記』ほかの写本、『琉球談』『琉球状』『定西法師琉球国物語』等々『土佐清水浦琉球船漂着聞書』や『琉球船漂着記』などである。とりわけ『大島筆記』は国文学研究資料館の史料部門の蔵書にも一本が伝えられており、挿し絵を伴う風俗資料としても興味深いものであった。また、叡山文庫等に所蔵される漢詩文資料を対象に、例えば『琉球百韻』などの琉球漢詩文と関連する資料の所在についても調査を行った。 一方、岩瀬文庫に所蔵される博物資料のうち、琉球物産に関わる資料にも注目すべき点があった。同様の資料は成城大学柳田文庫にも所蔵されているが、これらは琉球文学の範疇に留まらず、広く物産学から博物学へと学問領域が広がってゆく実相を探るのに最適の資料であると思われる。 なお、原本の調査に限定せず、古書や紙焼による資料収集をも行ったが、例えば関東の地方史文献中に、江戸末期、琉求人との往来があったことを窺わせる記事が見出されるなど、興味深い事例を採取することができた。 以上、これまでに蓄積したデータを整理統合し、より詳細かつ簡潔な調査記録の完成に尽力しつつ、新たな研究視点の発見・提示をも目指したい。
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