平成15年度は、ロングフェロー作品のパロディを中心に研究をおこなった。 まずはパロディ集やユーモア詩のアンソロジーを集め、その中からロングフェロー詩のパロディを探ったところ、フィービー・ケアリーという、1824年生まれの女性詩人の作品がとくに目を引いた。ケアリーは現在、ほとんど忘れられているアメリカの女性詩人だ。しかし、そのパロディは、きわめて楽しい詩になっているだけでなく、パロディという形式をたくみに利用して自分の世界を表現していることに驚かされた そこで、ロングフェローの詩「人生讃歌」をパロディ化したケアリーのパロディ「人生讃歌」を分析したところ、以下の特徴が明らかになった。まず第一に、ケアリーによるパロディのパロディ「人生讃歌」では、オールド・ミスが結婚を勝ち取ろうと自分を叱咤激励している詩になっていて、とてもユーモラスだ。第二に、すぐれたパロディというのは、原作との最小限の相違によって最大限の効果を与えるものであるが、ケアリーのパロディも、ロングフェローの作品をできるだけ忠実に踏まえ、たものになっていて巧みである。第三に、パロディとはふつう原作を崩壊させることが目的であって、みずからの主張は無いものだが、ケアリーの場合、女性としての主張をすることが大きな目的になっていて、読み応えのあるパロディになっている。そして第四に、そのような主張をするにあたって、ケアリーは、原作に対する鋭い批評を加えている。すなわち原作の抽象性や気取りを突き、具体的で現実的な世界を提示しているのである。これらの特徴から、ケアリーの作品はすぐれたパロディといえることが分かった。ルイス・キャロルによるパロディや、ブレット・ハートによるパロディと比較対照すると、いっそうケアリーのパロディの充実ぶりが明らかだった。 なお、ここまでの研究は、すでに本年度中に論文にまとめて発表した。
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