研究課題/領域番号 |
15520141
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
研究分野 |
ヨーロッパ語系文学
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 研一 東北大学, 大学院・国際文化研究科, 教授 (80170744)
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研究分担者 |
藤田 緑 東北大学, 大学院・国際文化研究科, 教授 (10219024)
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研究期間 (年度) |
2003 – 2005
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キーワード | 啓蒙主義 / 異境 / ロシア的農奴制 / ドイツ文化圏リヴォニア / 先住民農奴 / ブラック・ディアスポラ / 奴隷貿易 / アフリカ系英国人 |
研究概要 |
本研究は、18世紀ヨーロッパの「異境」、すなわち、ロシア領リヴォニアとロンドンのアフリカ社会を考察の対象とする。当代のリヴォニア先住民は異教徒であり、農奴として黒人奴隷同様に売買され、ロンドンでは黒人コミュニティのアフリカ社会の出現をみた。この2点に着目し、ヨーロッパ内部の異文化接触の究明を試みた。 リヴォニアはドイツ文化圏に属したが、上はドイツ人貴族から下はエストニア人・ラトヴィア人農奴まで、ロシア的農奴制に組み込まれていた。このドイツ文化と異文化の絡みあう「異境」に暮しながら、ドイツ文学前衛のヘルダーやJ.M.R.レンツは、いかなる文学的影響を蒙ったのであろうか。この点を解明するために、まず、入植牧師フーペルの啓蒙主義的活動を見定め、かれの穏健な農奴制批判を、メルケルの急進的農奴制廃止論と合せて分析し、当地の農奴解放運動を検討した。そのうえで、いかにレンツの「疾風怒濤」の土台がフーペルにより作られ、ヘルダーの『民謡集』がフーペルらの協力の下で生まれたのか、論究した。また、この「異境」体験がドイツ人の自己批判的契機として働く点にも触れた。 他方、ロンドンでは、英国の大西洋奴隷貿易参入を経て、黒人が恒常的に流入し黒人集落も出現した。黒人のいる風景は非日常的ではなくなったが、かれらの生活は英国人のそれから遊離していた。それでは、当地のアフリカ社会はいかなるものであったのか。英国人の目に黒人はいかように映ったのか。バーバー、サンチョ、エクイアーノの黒人3名に焦点を定めて、黒人の意識・アイデンティティの変遷、及び「黒い英国人」に対する英国人の対応と意識の変遷という2つの問題に検討を加えた。そのうえで、ロンドンのアフリカという「異境」が齎した社会構造の変動や文化的受容、人種主義や差別意識について論究した。この考察は、従来の白人主導による歴史観を批判し、黒人の目を通した英国文化史再構築の側面も持ったといえる。
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