研究概要 |
1860年代に流行したセンセーション・ノヴェルは、本科研研究課題のテーマである「幽霊小説」と「探偵小説」を取り込んだ小説として知られる。本年度は、このセンセーション・ノヴェルの代表的なものとして、Wilkie CollinsのThe Woman in White, Mary BraddonのLady Audley's Secret, Mrs. Henry WoodのEast Lynne等を取り上げ、これらの小説とCharles Dickensの小説を比較対照した。そして、ディケンズの小説がセンセーション・ノヴェルと多くの共通点を持つことを指摘した。本研究が明らかにしたセンセーション・ノヴェル的プロットは次のようにまとめることができる。 1、女性のヒロインは物語において「前景化」され、彼女たちはその前景化の中で、犯罪を犯す。 2、ヒロインは妻であることが多く、その犯罪は夫殺しの形を取る。 3、ヒロインは過去に結婚や性をめぐる秘密を有しており、性の規範からの逸脱者である。 4、ヒロインが夫殺し(その未遂も含む)のような決定的な犯罪をすると同時に、彼女は家庭を捨てる。 5、ヒロインの秘密を探る男性の登場人物が登場し、彼らは女性の秘密を暴く「探偵」の役割を演じる。 6、ヒロインはしばしばヒステリーの症状を呈する。 7、ヒロインは、最終的に自己崩壊という形で死ぬか、または男性によって精神病院に監禁される。 ディケンズの小説の今後の分析の展開は、センセーション・ノヴェルというジャンルを視座に入れずに考えられないものであることを本年度の研究は明らかにする。同時に、センセーション・ノヴェルの研究もディケンズの小説の文脈の中で見直される必要があることを本年度の研究は示す。
|