研究概要 |
今年度は本科研究費期間の最終年度にあたり,まず2005年春にはハンガリーとクロアティアに滞在した.クロアティアは,他の中欧カトリック諸国と同様にラテン語教育の普及がめざましく、古典学関係出版物のレベルも総じて高い.またクロアティア語は,スラブ語としては表記が比較的簡明なほか,セルビア語とも字母が異なるだけであるため応用性に富み,南スラブ地域をスラブ研究の基点とすることには十分な妥当性がある.同年夏から翌年初旬にかけてはハンガリーに長期滞在し,同国ギリシア・カトリック教会の典礼を中心に実体験を積んだ.研究の基点としたのは東北部ニーレジハーザのアタナズ研究学院であり,10月に同学院にてハンガリー語での講演を依頼され,その講演内容が同研究所の紀要Athanasianaに掲載されることになったのは最大の研究成果である.ギリシア・カトリック教会は,正教会と同様のビザンティン典礼と東方教会法を墨守しつつ,ローマ教皇の首位権を認めるカトリック教会の一組織であり,中東欧域に根強い信仰を伝える.その現代世界への適応をめぐって地域により二つの派が認められ,それはローマ化を推進する方向(ハンガリー)と,原ビザンツ様式への復古を是とする方向(スロバキア,ウクライナなど)である.これは,異なる宗教間で「新約」的要因がいかに古来の「旧約」的要因を受容すべきかという姿勢をめぐり、たとえばわが国における仏教文化継承について考える際にも大いに参考となる.後者の場合,古典の真なる継承の上で「新約」的要因は,純化された完全に「霊的」な次元において不可欠であるという結論に達する.この間にハンガリー教父学協会にも入会し,同国の古代学・教父学研究の水準の高さを実感することができた.国際語としては普及度の低いハンガリー語を,研究公表のための言語として用い続けるハンガリー研究者たちの気概には,大いに啓発されるものがあった.
|