中世フランス語版ジャン、ブレット『典礼大全』は今まで校訂版が存在せず、ほとんど研究の対象になってこなかった。今回の研究において、フランス国立図書館所蔵の写本を基に校訂版を作成し、この作品中で使われている語彙の地理的・歴史的な特色を総合的に検討した。その結果、この作品がかつて言われていたようにポワトゥー地方で制作されたのではなく、オルレアネ地方で制作されたものであることが分かった。この地域特定に際しては、伝統的な形態論的研究に合わせて、語彙の地理的特色の研究を最新の知見をもとにおこなった。他方、13世紀前半に作られたこの作品には従来のフランス語史研究の知識を補完する用例が多く使われていることも明らかにすることができた。多数の典礼用語がこの作品に初めて登場しているだけでなく、より広く宗教用語、さらには一般的な語彙に関しても、思いがけない箇所に多くの興味深い用例を収集することができた。これらは、現在刊行されつつある『古フランス語語源辞典』(Dictionnaire etymologique de l'ancien francais)(ハイデルベルク大学)にとって重要なデータになるばかりでなく、フランスのナンシーにある国立フランス語研究所(ATICF)が推進している『フランス語宝典』(Tresor de la langue francaise)の歴史的・語源的な観点からの改訂作業にも大いに貢献するものである。
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