本研究課題に関して当該研究期間に次のような作業を行った。 1.18世紀後半から19世紀初めのロシア文学とそれを支えるパトロンに関する文献を調査、収集した。また補助作業として18世紀の出版事情についての資料を分析した。 2.『18世紀ロシアにおける出版物』に依拠して18世紀にどのような書物が出版されたのかを調査し、出版の形態や部数、版の数、出版者、印刷所などについても必要に応じて情報を収集した。この調査によって当時作家が置かれていた状況、自費出版の事情、作家と出版者の関係等がある程度明らかになった。 3.日本18世紀ロシア研究会の運営に協力し、18世紀ロシア研究者との研究交流を継続、発展させた。第3回研究発表会を開催し、ニューズレターNo.2を発行した。この研究会は言語、文学、文化、歴史などジャンルを超えて18世紀ロシア研究者が情報交換と共同討議を行う場であって、本研究を推進する上で大きな役割を果たしたと考える。 4.研究期間の後半では近代ロシア文学の嚆矢となったフョードル・エミンの生涯と作品の考察を行った。エミンは1760年代に翻訳、創作、雑誌発行等、意欲的に文学活動を展開し、18世紀末のセンチメンタル小説の礎を築いた人物として評価される。また彼の活動期はロシア文学・芸術の最大の支援者のひとり、エカテリーナ二世治世の時代に当たっており、彼の活動と文学作品の分析はとりもなおさず、近代ロシア文学誕生とその支援者の関係を理解するための有効な手掛かりとなった。エミンに関する研究の成果は「18世紀論集」3号及び科研研究成果報告書に発表されている。
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