17年度に引き続いて資料の収集と分析を行うとともに、研究の総括を行っている。17世紀王党派文学の隠蔽性をジャンルの使用という観点から考察していくと、ジャンルの機能は主として偽装ならびにコード化という二つの側面に分けられることが分かる。まず偽装に関して言えば、ジャンルは、ジャンルから予想されるテーマや概念に読者の読みを導くことによりテクストの解釈に一定の方向性を与え、言語レベルでは比較的明瞭に示されている含意や逆説的な意味合いを潜在的に可能な解釈というレベルに留めてしまう効果を持っており、このような機能は、明らかに非政治的なものと理解されていた恋愛詩、宗教詩、瞑想詩、また散文では指南書、大全など実用書等のジャンルに見て取ることができた。一方、コード化は偽装に比べてより複雑な機能であり、そのジャンルに特有のテーマや関連するさまざまな副次的概念やコードが、偽装としてではなく、むしろ意味の生成そのものに積極的に関わることを特徴とする。17世紀の王党派文学の文脈においてこのコード化の機能を最大限に発揮したのはやはり牧歌と哀歌であろう。これらに関してはさまざまな興味深い実例を観察することができた。牧歌に関しては、それが本質的に持つ寓意性、政治的主題との歴史的な関わり、また、黄金時代への回帰というその特徴的なテーマ等の点で、内乱期の王党派文学の隠蔽性と最も深く関わるジャンルだと言える。また哀歌は、単に悲しみや怨嗟の表現であるだけでなく、死者に関するカリスマの生成や煽動の意図などの点で、内乱期王党派文学におけるプロパガンダの問題とやはり密接に関わるジャンルである。現在は研究の最終段階として、牧歌や哀歌を含むさまざまなジャンルについて得られた知見を整理し、総括を行っている。
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