研究概要 |
本年度は、15世紀のノヴゴロド・モスクワ年代記の中でも重要な位置を占める「ノヴゴロド・カラムジン年代記」の第1部(Новгородская Карамзинская летопись,первая подборка)について、その出典を特定し、出典の読みとの異読を網羅的に示し、出典の特徴などについて注釈づけした「注釈テキスト」の作成を主要な課題として研究を進めた。この作業は全体の半分を超えるところまで進んでおり、現在も進行中である。 「注釈テキスト」を作成する過程で、同時に、この年代記の出典、編集傾向、編集者像、編集方針などについて考察を行った。その成果の一部は、2003年11月25日にペテルブルグで行われた「第二回リハチョフ学会」(Вторые лихачевские чтения)での報告「ソフィースキイ・ヴェレメンニクについて」(О Софийском временнике)で発表した。総じて、この年代記は初期キエフ・ルーシの歴史をノヴゴロドの歴史に結びつけ、ルーシとしての正統性を与えようとする指向と同時に、ノヴゴロドの歴史的な教会活動を重視する傾向があることが分かった。編集者が15世紀ノヴゴロドの教会人であることは明かである。 ただし、この報告は年代記の前半部分の分析をもとにした中間的な研究発表であり、まだ仮説を問題提起した段階である。最終的な結論は、「注釈テキスト」を完成し、年代記の出典などを全体として考慮に入れたあとに下されるものと考えている。
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