本研究は、ノヴゴロドとモスクワで15世紀に成立した諸年代記とそれをめぐる歴史観の問題を、文献学(テキスト学)的な方法によって解き明かそうとする試みである。本研究により限定的ながらもこの分野の重要な問題を指摘することができ、また新しい研究方法の試みを提出することができた。 研究成果報告書に掲載した、I.「ノヴゴロド・カラムジン年代記(第1部)」注釈テキスト(露文)は、方法的に新しい試みである。この年代記は先行する年代記を再編集することにより、15世紀のノヴゴロド人のルーシ史観を提出しており、その編集方針のを解明は、この時代の年代記研究にとって重要な課題である。ここでは、この年代記の記事の出典を特定し、出典の読みとの異読を網羅的に示し、大きな改変がなされている注目すべき個所については、その編集意図について注釈をつけた。 年代記編纂史に関しては二つの論文を発表することができた。 報告書II.「<ソフィア・ヴレメンニク>の概念再考」(露文)、では、テキストの細密な出典分析の結果、ノヴゴロド人であるこの年代記の編集者は、キエフとノヴゴロドの史料を巧みに連結しながら、教会システムの中で初期のルーシ国家を統一体として描き出そうとする意図があったことを立証することができた。 報告書III.「<ソフィア第一年代記>の編集上の特徴について」(露文)では、15世紀前半にノヴゴロドの年代記を取り入れながらモスクワで編集された「ソフィア第一年代記」の編集方針について、その特徴的な編集個所を、有力な出典である「ノヴゴロド第一年代記」「ノヴゴロド・カラムジン年代記」の該当部分と対比しながら、考察した。その結果、「ソフィア第一年代記」の編集者は、モスクワ大公権の正当性を歴史的に裏付けようとする一貫した意図を持っていたことが明らかになった。
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