研究概要 |
本年度の実績は、古代ギリシア・ローマ以来の数秘術の伝統とナンバー・シンボリズムを近代初期英国の詩学がいかに受容したかについて分析したことと、それによって得られた研究成果を援用して、近代初期英国の悲劇、祝婚歌・祝婚劇を空間論的視座から分析したことである。 近代初期英国の悲劇の分析に関しては、ShakespeareのRomeo and Julietを分析の対象にとりあげ、じゅうらい指摘されてきたような、ルネサンス期イタリアの絵画を想起させる、Romeo and Julietのアクション・プロットが、一幕四場のMercutioの台詞において描かれる、Queen Mab像が胚胎する文化的重層性によって脱構築されていることを論証した。また祝婚歌・祝婚劇の分析に関しては、近代初期英国における代表的な雄弁術のテクスト-Geroge Puttenham著The Art of English Poesie(1589年)-が提示する「祝婚歌」"Epithalamie"の三部構造に基づいて、Edmund SpenserのEpithalamion (1595年)、Ben Jonsonの"Epithalamion : or, a Song" (1632年)をはじめとする祝婚歌、そしてShakespeareの祝婚劇The Tempest(1610年)を分析した。結論として、A.K.HieattのShort Time's Endless Monument : The Symbolism of the Numbers in Edmund Spenser's Epithalamion (1960年)がSpenserの祝婚歌に関して提示しているような、整然としたナンバー・シンボリズムを常に脱構築させる要因を、近代初期英国の祝婚歌・祝婚劇自体が内包していることを検証した。
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