本年度の研究実績は、数秘学的・空間論的視座から以下の諸点を解明したことである。 1.Shakespeareの物語詩The Rape of Lucreceにおいては、Earl of Southamptonにあてた献辞で表明されている、始めも終わりもないパトロネージ(patronage)の「開かれた構造」が、この詩自体の構造として選択されていること。 2.Hamlet五幕一場の墓地でのHamletの瞑想は、St.IgnatiusのSpiritual Exercisesにおける第一週の第一霊操から第五霊操にいたる、「序」(preludes)と「要点」(points)をその構成要素とする、霊操のパラダイムに基づいて実践されていること。古典的記憶術のヴァリエーションと言うべき霊操は、五幕一場以降の場面では用いられず、主人公の復讐という行動と彼に関する記憶へと焦点が移されていること。 3.Shakespeare劇のアルファとオメガと呼ぶべきThe Comedy of ErrorsとThe Tempestは、古典的な演劇の規範である「三統一の法則」(the unities)-筋の統一、場所の統一、時間の統一-を遵守している点で、ともに彼の劇作品中で特異な位置を占めているが、前者はThe Taming of the ShrewやA Midsummer Night's Dreamと同じ、枠となる芝居と劇中劇からなる二重構造を備えているのに対して、後者はGeorge PuttenhamがThe Arte of English Poesieの"Of Proportion Poetical"の中で述べている"The Lozange Called Rombus"の構造に基づいて構成されていること。
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