本年度の研究実績は、古代ギリシア・ローマ以来のナンバー・シンボリズムの伝統を踏まえながら、数秘学的・空間論的から以下の諸点を解明したことである。 1.二つの焦点を、王座という一つの中心点に収斂させる数秘学的ダイナミクスを備えた、近代初期英国の芸術的・政治的・魔術的舞台空間を基軸に据えた宮廷仮面劇(the court masque)が、MacbethやThe TempestといったShakespeareの演劇に取り込まれると、線遠近法(the linear perspective)によって構成される理想的な仮面劇の構造が脱構築され、劇そのものの構造およびテーマが、一つの中心に収斂することのない、二つの焦点を備えた楕円構造に帰着すること。 2.平成15年度の研究に引き続き、George PuttenhamのThe Arte of English Poesie(1589年)で提示される、「祝婚歌」("Epithalamie")の特徴である三部構造が、The Two Gentlemen of Verona、Romeo and Juliet、A Midsummer Night's Dreamなどのシェイクスピア劇に取り込まれる際に、そのパラダイムが積極的に利用されつつも、祝婚をはじめとするテーマの側面において変形が加えられていること。 3.シェイクスピアのThe Merry Wives of Mindsorにおいては、劇中で揶揄の対象となるラテン語の語形変化(パラダイム)に似た、プロットおよびテーマ展開のパラダイムが用いられていること、そしてEnglishnessの表象を目的とする本劇が、全てのテーマを収斂させるはずの森の儀礼的場面において、Englishnessを解体させるモメントをはらませていること。
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