研究課題/領域番号 |
15520168
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
稲垣 直樹 京都大学, 大学院・人間・環境学研究科, 教授 (20151574)
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研究分担者 |
レボラール パトリック 南山大学, 外国語学部, 助教授 (50329744)
丸岡 高弘 南山大学, 外国語学部, 教授 (50199923)
小潟 昭夫 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (40051825)
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キーワード | ヴィクトル・ユゴー / ロマン主義 / メロドラマ / アントワーヌ・ヴィテス / ブレヒト / 『笑う男』 / 『アイスランドのハン』 / 『千フランの報酬』 |
研究概要 |
本年度の研究によって得られた新たな知見を以下に示す。 1、『静観詩集』の中の短詩「盲目の詩人へ」から『笑う男』の主要登場人物デアにいたるまで、ユゴー作品に登場する盲目の人物には必ずと言ってよいほど明晰さが備わっているが、これは、ユゴーの小説で扱われる盲目性に二重の機能があることを示唆している。登場人物たちは肉体的または精神的な障害のために、他の者たちが容易に理解できるようなことを理解できないのであるが、反面、同時に外の世界に向かって、ものごとを解明するような光を投げかけているのである。 2、後年ユゴーが小説作品において展開する様々なテーマ、エクリチュールの様々な形態、様々な技法の萌芽が初期小説『アイスランドのハン』には見られる。例えば,この小説の技法に関して、ユゴーはモデルとしてメロドラマの手法を用いている。ユゴー自身の長兄アベルを含む三人の共著である『メロドラマ概説』によれば、メロドラマの典型的な主要人物は間抜け、暴君、純真で迫害される女性、騎士、飼いならされた動物などである。この概説は例えば「最大の美はコントラストから生まれる」という原則に呼応している。作中人物を産み出すユゴーの方法は明白にこの手法に由来している。 3、Antoine Vitezを始めとする戦後の演出家たちが好んでユゴーの演劇作品を上演している。彼らがロマン主義の作品であるユゴーの演劇をむしろ象徴主義的な作品として演出したときに、現代の観客の感動を呼ぶ傾向がある。また、ユゴーが亡命時代に書いた『千フランの報酬』などの軽妙な作品がブレヒト的な上演法によって上演されたことによって、きわめて20世紀的なエクリチュールの実験室のようにみなされている。
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