絵画、彫刻、建築に対する興味が飛躍的に増大したイギリス18世紀は「視覚中心の時代」と呼ぶことができる。本研究では、文学作品のみならず、17〜18世紀に飛躍的な展開をみた絵画理論・審美学理論を考察の対象としつつ、個々の芸術家、芸術作品、芸術形態と政治・社会との関連を探った。従来の個別的・孤立的研究を横断することにより、今日的視点からは断片的で細分化されたものとしてしか映らない当時の文化の諸相が、その根底では相互交渉・対立・越境侵犯を繰り返しつつ18世紀イギリス文化を形成していた様子を明らかにした。本研究では、一方で、王立美術院を支える基本理念であるDiscourses on Artの精読を試み、この絵画理論書を多角的・総合的に捉え、当時の第1次資料を大量にマイクロフィルム等の形で取り寄せ、それらの解読・解析を通して、王立美術院という制度による絵画の検閲に見られる政治性をあぶり出し、イギリス18世紀文化に見られる制度、言語的表象、視覚的表象に関わる諸問題を詳しく検証し分析した。
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