ヨーロッパの仏語圏地域研究、特に複合的文化を有するベルギー文化の「中心」「周縁」概念とアイデンティティ確立の問題の考察を課題として、19世紀から現在に至る芸術・文化の諸相の研究を続けている。今回は文学・芸術作品の分析や芸術文化活動の歴史的変遷の研究を踏まえ、また同様の研究対象を20世紀の芸術文化活動にまで広げて進めると同時に、創作活動を支える芸術文化環境、すなわち国家や地域単位での文化政策、企業や民間も含めた公的援助や助成システムの歴史的変遷と現状も調査・研究し、多言語・多文化を擁する連邦国家ベルギーの芸術文化のあり方を多角的な視点から捉えるべく、研究を進めている。今年度の成果は以下のようなものである。 1.ウィーン、プラハ、ブダペストにて芸術文化環境に関する現地調査、資料収集を行なった。特に周縁都市の芸術文化発展の特徴と、ヨーロッパ東西文化の結束点・交差点としての役割に注目し、ブリュッセルと3都市との影響関係、相違点を考察した。 2.ベルギーのブリュッセルを中心に、舞台芸術環境に関する現地調査および資料収集を行なった。(ブリュッセル大学、ベルギー・フランス共同体文化省、ベルギー王立図書館、王立モネ劇場、フラームス・オペラ・アントウェルペン、ブリュッセルの諸劇場にて、関係者との面談も含めて調査) 3.連邦体制におけるベルギーの言語法について調査・検討し、その一部を翻訳紹介・解説することで、多言語国家の言語文化的アイデンティティを探る一助とした。 4.ベルギーの地方劇場の役割について、現地での聞き取り調査をもとにリエージュの劇場とオペラハウスを例にして、その活動内容や公的助成、地域性・国際性について考察した。
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