ヨーロッパの仏語圏地域研究、特に複合的文化を有するベルギー文化の「中心」「周縁」概念とアイデンティティ確立の問題の考察を課題として、19世紀から現在に至る芸術・文化の諸相の研究を続けている。今回は文学・芸術作品の分析や芸術文化活動の歴史的変遷の研究を踏まえ、また同様の研究対象を20世紀の芸術文化活動にまで広げて進めると同時に、創作活動を支える芸術文化環境、すなわち国家や地域単位での文化政策、企業や民間も含めた公的援助や助成システムの歴史的変遷と現状も調査・研究し、多言語・多文化を擁する連邦国家ベルギーの芸術文化のあり方を多角的な視点から捉えるべく、研究を進めている。今年度の成果は以下のようなものである。 東大駒場で開催された日本学術振興会人文・社会科学振興のためのプロジェクト研究事業<文学・芸術の社会的統合機能の研究>主催のシンポジウム「不思議の国?ベルギー・フランス語共同体の文学と芸術(文学・芸術の社会的媒介機能)」において、パネリストとして報告と討議を行った(2005.6.2)。「舞台芸術・芸能見本市2005大阪」で文化政策セミナー「文化創造を辺境から考える-中心/周縁の二分法を越えて-」において、フランス語圏のイスラム系移民2、3世による新しいシャンソン流行の背景や意義について報告をした(2005.7.25)。ベルギーにおける芸術文化政策の歴史的背景や現状を探る研究の一環として、言語法についての解説と翻訳をし、共著にまとめた。また、ベルギーの多文化共生と文化政策について、及びベルギーのナショナリズム意識と芸術作品との影響関係についてそれぞれ論文で考察した。本科研費による成果は報告書としてまとめているところである。また以前からの研究と合わせて、『周縁の文学-ベルギーのフランス語文学にみるナショナリズムの変遷』のタイトルで博士論文として提出(審査中)、さらに単著として刊行の予定である(2006.12出版予定)。以上の研究の確認、今後の継続的調査の準備のために、ベルギーの各都市、ブリュッセルにおいて、研究者、芸術文化担当者、王立図書館、文化施設の担当者との意見交換、報告を行う(2006.3)。
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