本研究は20世紀のドイツと日本に決定的な影響を与えた戦争をめぐる文学を考察する。 ドイツは二度の世界大戦の震源地となった。それゆえ多くの戦争文学や戦争を背景とする文学作品が書かれた。それらは戦争および時代の記録として重要であり、多様な側面を持つ。本研究は1920年代〜1930年代に活躍した作家、芸術家達の生涯と活動の軌跡、作品と社会状況の相互関連を学際的に究明、考察する。日本では戦争を扱った作品の考察を行なう。 対象となる作家はナチス政権成立後に亡命したため、ドイツや周辺国で調査にあたり、研究資料を掘り起こしながら個別研究を進める点に研究の特色がある。他方で近年の社会史、文芸学、演劇史の研究成果を最大限に活用し、解明する。 17年度は8月〜9月にかけてドイツ、ポーランド、チェコ、スイス4カ国を巡り、各地のナチス強制収容所や関連施設を訪ね、調査を行った。具体的には、フランクフルトの亡命文学資料館、ベルリンの抵抗記念館と郊外のザクセンハウゼン、ワルシャワ郊外のトレブリンカ、ルブリン近郊のマイダネク、クラクフ郊外のアウシュヴィッツ。プラハ近郊のテレジーン、ミュンヘン近郊のダッハウ各強制収容所等である。 成果としては、『大学新入生に薦める101冊の本』(岩波書店)の中で、サン・テグジュペリの「人間の土地」、オーウェルの「1984年」、原民喜の「夏の花」に関して執筆し、戦争と深く関わり、戦争の時代を深く捉えた作家の代表作を論じた。論文「松本清張と藤沢周平-二つの『半生の記』」では、戦争に兵士として応召した松本清張と同時代作家藤沢周平の戦中、戦後体験を分析した。『日本とドイツ』等の書評では、日独両国の戦後の戦争体験の変容を押さえた。著書『ナチスと闘った劇作家たち』 (九州大学出版会)に別の論文を加え、文学博士(論文博士)の学位を京都大学に申請し、審査を経て今年度授与された。
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