研究課題
本研究は、ヨーロッパの重要な伝承領域であるトポス「水の精の物語」をドイツ文学を中心に考察し、伝承領域の背後に隠された「聞くこと」と「見ること」をめぐる人類の身体論的展開を「視覚と聴覚の弁証法」と命名し、その実相と意味の解明を目指している。平成15年度末までの研究では、『オデュッセイア』に登場するセイレンの美しい「声」を重視する見解と美しい「姿」を重視する見解とが融合と離反を繰り返しながら、セイレンの後裔たちの物語を形成していく過程を考察した。特にホメロスから中世を経てゲーテ、ドイツロマン派、アンデルセンにいたるまでの水の精の物語の歴史的展開を詳細に検討した結果、中世において視覚性のみを重視する伝統が形成された後、長らく途絶えた水の精の歌がゲーテによって復活させられ、視覚性も聴覚性も共に有するドイツロマン派の「水の精の物語」が世界文学となりながら、アンデルセンによって再び聴覚性が欠落させられる過程があることを明らかにした。平成16年度の研究では、前年度の研究成果を踏まえ、一方でドイツロマン派、特にアイヒェンドルフとハイネの考察を進め、他方で日本やアジアにおける人魚の物語を検討した。特に後者の研究からは、明治維新以降の日本文学に増え始める人魚の記述にはアンデルセンの影響が顕著であり(例えば、谷崎潤一郎)、その結果、近代的な「水の精の物語」の特徴として聴覚性が軽視されている事実を確認した。
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Berichte des Kyushu-Symposium 2003
ページ: 28-41
Asiatische Germanistentagung 2002 Bejing : Neues Jahrhundert, neue Heraus-forderungen-Germanistik im Zeitalter der Globalisierung
ページ: 91-101