研究課題
基盤研究(C)
本研究は、ドイツ文学を考察の中心に据えながら、ヨーロッパ文学におけるトポス「水の精の物語」の古代から現代に至るまでの変遷と、その背後にある「視覚と聴覚の弁証法」の解明を目指した。その結果、トポス「水の精の物語」が聴覚重視と視覚重視の融合と離反を繰り返しながら変容する過程を明らかにした。具体的には、1.ホメロス『オデュッセイア』のセイレンの誘惑手段をめぐって古代から現代にいたるまで知性重視、聴覚重視、視覚重視の概ね三つの異なる見解があること、2.本来は聴覚を重視する「水の精の物語」が次第に変質し、歌うことのない美しい水の精が登場し、視覚のみを重視する伝統が中世において形成されること、3.ゲーテが水の精における歌の欠如という点で伝統の継承者となるが、同時に歌を再び復活させる改革者となり、更には新たな展開の先駆者となること、4.ドイツ・ロマン派によって「水の精の物語」における聴覚重視と視覚重視のふたつの見解が混淆するが、その影響を多大に受けたアンデルセンおいて再び歌声が消失すること、5.その後、新たな「水の精の物語」が多様に展開しながらも、特にドイツ文学では同時に歌声の欠如という点で共通し、我々に新たな身体論的問題を問うに至っていること、6.このような更なる展開が近代日本文学の人魚をめぐるディスクールに決定的な影響をもたらし、またもたらし続けていること、以上の六点を明らかにした。
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九州大学大学院人文科学研究院「文学研究」 102
ページ: 19-48
Neue Beitrage zur Germanistik. Hrsg. van der Japanischen Gesellschaft fur Geramanistik. Band 3 / Heft 4.
ページ: 143-152
Studies in Literature. Faculty of Humanities. (Kyushu University)
Neue Beitrage zur Germanistik. Band 3 / Heft 4. Hrsg.von der Japanisehen Gesellschaft fur Geramanistik. (Munchen)