今年度の研究計画にあったのは、1.出来事の記述に関する、人文社会科学の議論に見取り図を与えること、2.分析のためのデータベースを作成すること、3.マックス・フリッシュのナラトロジーを、1の知見に結びつけることであった。 1.歴史記述をめぐる野家啓一と高橋哲哉の論争の中心にあった「語りえぬもの」に焦点を当てて、20世紀の人文社会科学が出来事の表象の問題にどのように取り組んできたかを解明した。4月から7月にかけて、大学院生と社会人を対象にした「自主講座:歴史・物語・倫理」において12回にわたって連続講義を行うことで、研究の成果を随時公開し、それをまとめたものを11月に台湾で行われた「文化輿環境国際学術会議」のシンポジウムにて発表した。さらにこのシンポジウムの成果をまとめた『環境と人間』(九州大学出版会、2004年)に「史学と詩学のあわいに -出来事の語りにおける仮構性の問題をめぐる考察-」を執筆した。 また、証言と偏見との関係の事例研究として、映画「ライジングサン」の原作を取り上げ、それを論文にまとめた。 2.文献資料をOCR処理してデータベース化し、関連項目を縦断的にキーワードで検索するシステムを構築した。マックス・フリッシュのテクストに関しては、作業が終了し、検索可能な状態にあるが、和文資料との間でキーワード検索をするには、ドイツ語テクストの内容を、和文に直して登録する必要があり、その問題を解決するための索引作りを現在行っている。 3.マックス・フリッシュのナラトロジーを、人文社会科学における出来事の表象の問題圏の中に位置づけるために、『シュティラー』における「ほら話」に焦点を当てて文化史的解明をおこなった。この成果は、平成16年度の『独文学報』(20号、大阪大学独文学会)に投稿する。
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