2003年度は来年度、新評論より出版予定の著書『異邦のふるさと-アイルランドをめぐる12章』(仮題)の原稿作成と、翻訳シェイマス・デイーン『アイルランド文学小史』(国文社)の訳稿作成に多くの時間を当てた。翻訳のほうは初校の段階で、あとは、訳注を作成する予定である。一方、著書のほうは、12章分の第一稿を仕上げた。うち、「オンファロス、オンファロス、オンファロス-吉田文憲とシェイマス・ヒーニー」を『論集』(44号)に、そして、「『ダニーボーイ』変奏」を『文学空間』(4巻、10号)にそれぞれ寄稿した。また、北アイルランドのミューラルに関する論考「北アイルランドの政治的風景-ミューラルを見ながら」を新たに書いた。さらには、これまでに書いた9章分の改稿を重ねた。著書は、来年夏の出版を予定している。 また、12月のクリスマスの時期に一週間ほど、北アイルランドに行き、現地で紛争地区を中心に調査した。特に、これまで足を運ばなかったベルファスト北部とデリーのウォーターフロント地区を回り、北アイルランド社会の対立と分断を改めて目の当たりにした。出張時期は、偶然にも北アイルランド選挙の一ヵ月後にあたり、プロテスタント系強硬派政党の大勝に終わった選挙結果について現地の人と、しかも、文化的背景や階層の異なる人と、議論する機会を得たのは北アイルランドの歴史・社会・文化を考える上で一つの契機となった。他には、シェイマス・ヒーニーの故郷を訪れ、詩と歴史の資料館「ベラーヒボーン」の新任者パット・ブレナン氏と会見する機会を得た。
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