研究課題
前年度に研究を深めた大戦間期イギリス社会において中心的メディアとして大発展した聴覚メディア(ラジオ)および視聴覚メディア(映画)と文学の関係の中で大きな存在として浮かび上がってきた国民的ミドルブラウ作家J・B・プリーストリーの音声的・聴覚的役割を精査したシンポジウム(「感覚・テクノロジー・モダニズム」)発表を日本英文学会大会において「しゃべる流行作家・歌う共同体-ラジオ・ミドルブラウ・有機体主義的左翼」と題して行った。そこで明らかにされた感覚メディアを交えた文化史アプローチの重要性は、それ以外の2つのシンポジウム発表(日本ロレンス協会大会「ロレンス・モダニズム・ファシズム-文化史の方へ(ロルフ・ガーディナー考)」および慶應英文学会「ロレンス研究の発展的滅亡」)においても言及された。一方、第一次世界大戦以前の口と耳にまつわるメディア(蓄音機や音声速記)論や歴史トラウマ論と絡めて1897年出版のアイルランド小説『ドラキュラ』を精査しつつ、文学入門の役割も意識して書かれた『「ドラキュラ」からブンガク』(慶應義塾大学出版会)を上梓して、感覚文化・文学史研究を学生を初めとする広い読者層に紹介する試みを行った。そこでは、この小説の語りと表象における蓄音機や音声速記の重要な役割を、スペクタクル化の進む近代社会の効率化促進に連動すると同時にそれに対抗する唯美主義的運動にも絡むという二律背反的な文脈から説明するとともに、声とセクシュアリティ史の絡みを解きほぐし、口とエロスと声を出版時に50周年を迎えたアイルランド大飢饉のトラウマと結びつけるという研究成果を盛り込んだ。その他に、D・H・ロレンスのリズム感覚という視点から19-20世紀イギリス文学・文化の諸相を論じた論文を発表した。
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Literature, History, Culture(Michael Bell et al. eds.D.H.Lawrence )
ページ: 398-415