研究概要 |
本年度は以下のように研究を進めた。 1 モリスの韻文ロマンスと西洋古典文学の伝統 The Earthly Paradiseにおける古代ギリシア、ラテン詩に取材した物語群を取り上げて、モリスがソースにした素材をどのように自作品に生かしているかを検討した。特に物語中の一篇である"Cupid and Psyche"を精読し、OvidiusのMetamorphosesやDe Lorris, De MeungのLe Roman de la Roseでの当該神話の語りとモリスのそれとを対比的に分析した上で、モリスの芸術観が作品に色濃く反映されていることを確認した。 2 モリスの韻文ロマンスと装飾芸術作品との関連 モリスの文学創作と文学以外のモリス商会、あるいはケルムスコット・プレスなどでのモリスの装飾芸術での仕事が密接な関連を有することを検証した。また協働者Edward Burne-Jonesの装飾芸術および絵画作品の主題とモリスの韻文ロマンスとの影響関係についても考察した。 3 ロマンティック・エコロジストとしてのモリスという視点 モリスの生涯の活動のなかで、近年特に注目されている側面として、自然保護・景観保全の運動の実践がある。The Earthly Paradiseは、E.P.Thompsonによってescapismの内容をもつとして否定的に見られていたが、現代のエコクリティシズムの源流としてのロマンティック・エコロジーの産物とみなすとき、この作品は別の容貌をもって立ち現れてくる。このテーマについては、部分的に、財団法人ラスキン文庫主催のシンポジウム「芸術と大地の美-ウィリアム・モリスと<保全>の思想」(於日本女子大学、2004年10月31日)において口頭発表した。なお、研究の過程で、大槻憲二のモリス研究の重要性を認識し、その再評価を試みた。
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