広くアメリカ文学作品における「労働(labor)」の概念と「所有(property)」の概念から派生するさまざまな文化・社会・政治状況及びその文学的表象を分析し、文学史を横断する考察を試みる。このとき、「労働(labor)は狭義の「労働者による労働」のみならず、女性によるlaborである出産をも含み、家庭内労働、奴隷労働、肉体労働、知的労働など、ありとあらゆる労働の形態を包括するものとして捉える。また、「所有」についても、私有及び公的財産に関わる所有の諸形態、ならびに、知的所有権に代表される法的概念により明確化される「所有」を考察の対象に含有する。こうした前提条件のもとに、人種・ジェンダー・階級を異にするアメリカの作家たちが、いかに「労働」と「所有」の問題を形象化しているかを探り、労働と所有をめぐるアメリカ的哲学の立脚点を明らかにする。 主要設備として、研究関連研究図書を購入し、研究協力者を招き、関心を持つ研究者との研究会を年に5回程度開催し、知識の交流をはかってきた。ここでは理論書の読解とともに、成果発表のための知識交換、研究会を通じて得た知見を研究書にまとめるための意見交換をおこなった。このような研究活動を通じ、アメリカ文学を見渡してきたが、「労働」と「所有」というふたつの概念をキーワードに、法と文学の学際的研究の観点から今まで部分的になされてきた考察とをつなぐ研究の可能性が見いだされることとなり、これが今回の研究の最終目的となった。本研究では、「労働」を知的精神労働に限定せず、広義に解釈し、「所有」の概念を共に考察することにより、アメリカ合衆国におけるマイノリティのみならず、支配者層・資本家・国家権力等の精神性、政治性を解き明かし、文学に形象化される際の影響力を読み解くことにより、これまでの研究をさらに発展させる。
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