研究概要 |
本年度も海外研究協力者と緊密な連絡体制をとりつつ、以下の研究をおこなった。 1.東西の英雄文芸とその社会背景を比較する意義を理論的に解説する論稿を執筆した。その重点は、日本の歴史学者が文芸作品に史料としての性質を見出すいくつかの典型的な例を引用し、同時にその方法論を海外の研究者に提示することである。文芸作品の史料としての価値を従来以上に認めることを促した。 2.英雄叙事詩の「オリジナル複数説」は、日本の軍記物語研究者の間では、依然として知られていないため、この最新の理論に独自の知見を加えて批判的に紹介する研究を遂行しているが、ドイツ語圏の英雄叙事詩の場合、「オリジナル」と最古の写本の成立年代の間隔がしばしば数年から数十年単位とかなり小さいのに対し、例えば『平家物語』ではその差が約200年におよぶため、理論的には整合しない。しかし両者とも口承文化と文字文化の接点で成立したという共通点があるため、軍記物語の成立事情に関する知見が比較的乏しい国文学界に与える知的インパクトは大きいと想像される。この点は上記論文でも簡略に紹介し、来年度以降に本格的考察を発表する予定である。 なお今回助成を受けて遂行する研究の前段階として平成12-14年度に、同じく文部科学省科学研究費(萌芽研究「軍記物語の研究成果を英雄叙事詩の研究に応用する可能性について」課題番号12871058)の助成を受けて行った研究の成果(Doppelte Lehnsbindung im Mittelalter. Eine Fallstudie. In : Neue Beitraege zur Germanistik 109(2002),137-150)に対し、平成16年6月、第1回日本独文学会賞(ドイツ語論文部門)が授与された。
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