印度大説話集Brhatkatha(BK)の原本は失はれ數種の傳本が現存するばかりである。平成15年度はそれらの中でカシミール系傳本とされるKsemendra作Brhatkathamanjari(BKM)とSomadeva作Kathasaritsagara(KSS)について考察した。このBKMとKSSは原BKに直接溯るものではなく、現存せぬ何らかのカシミールBK(KBK)を共通の典據とするものである。本年度はこのKBKがいかなる性格形態の説話集であったのかといふ問題の解明に努めた。すなはち、KSSの序偶、KSSの跋たるprasasti、BKMの要約たるupasamharaの述べるところを分析し、KBKが従来考へられてゐたやうに、パイシャーチ語の作品ではなくして、すでにサンスクリット語散文をもって著されてゐた説話集であることが判明した。同時に、KBKの形態をより良く留めているものは、KSSではなくBKMの方であることをもあらためて確認した。
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