研究概要 |
取り上げるべき作家の選定作業を行う過程で、近代化と文学との緊張関係が、トルコにおいてもっとも先鋭な形でわれるのが、20世紀初頭のトルコ革命期以上に、1980年クーデタを契機とする第三共和政確立期であるとの結論に達したため、このクーデタをはさんで活動する作家の中から、対象とする作家の選び出しを行なうこととした。バフリエ・チェリを中心とするこの作業の結果、詩人ヒルミ・ヤヴズ(Hilmi Yavuz,1936-)、短編作家オヤ・バイダル(Oya Baydar,1949-)、長編作家ラティフェ・テキン(Latife Tekin,1957-)の三名を研究対象として取り上げることが決定された。 まず三名の評伝と作品目録の作成が進められた。大学院学生に、さらに学部学生も加わった研究会でこの作業が進められ、不明な点は作家本人と連絡を取りつつ三人の詳細な経歴と作品リストが作られた。三人に共通するのが、その進歩的な傾向ゆえに80年クーデタ後に自由な活動を阻まれた点であった。彼らの作品を研究会で順次取り上げ、その内容、文体等を検討し、政治が文学に与えた深い傷がしだいに明らかとなった。 こうした作業を進めるかたわら、作家本人に彼らの作品と、さらに第三共和政成立以後の文学と政治、さらには近代化と文学との関わりについて語ってもらい、それをもとに討論を行なうことが決定され、準備が進められた。そして、12月6日に全国のトルコ研究者の参加もあおいで、シンポジウム「作家と語る現代トルコ文学 -創作と研究の現場から-」が開催された。三人の作家のほかに、日本とトルコの研究者が近代トルコ文学の直面する様々な問題についてトルコ語で報告し、さらにフロアとの討論もトルコ語で行なわれるという、日本では初めてのシンポジウムは成功裏に終わり、日本におけるトルコ文学研究は新たな歩を踏み出したと言うことができると思われる。
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