今年度は、主にモリスが社会主義運動に身を投じて以降展開された芸術論を中心に検討し、モリスの芸術観における「自然」の意味とその位置づけを探った。特に今年度は、従来ほとんど注目されてこなかったモリスとアメリカとの関連に注目した。モリスのデザインそのものが、今日ますます注目される中で、そのデザインのインスピレーションの源泉として彼が重要視した自然との関わりや環境保全思想についてはほとんど考察されていない。モリスの自然観を探る上で重要なのは、1885年4月に初めて知人を介して手にし、その3ヶ月後、自らも購入したヘンリー・ディヴィッド・ソローのWaldenである。最も初期にソローの伝記Life of Henry David Thoreu(1890)を書いたのは、イギリスの社会変革家Henry S.Saltであり、モリスの当時の活動や交友関係にも極めて近いところにいた。ソロー研究の中でも、彼の重要性はほとんどこれまで顧みられることがなかったが検討が必要である。また、アメリカ関連では、ラスキンが自らをその弟子と言ったカーライルの存在も忘れることができない。アメリカ超絶主義の展開において極めて重要な役割を果たしたカーライルだが、彼はモリスとの関わりにおいても、1877年発足の「古建築保存協会」にも名を連ねていることからさらに詳細な考察が必要と考えられる。
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