本研究は、世界最大の叙事詩『マハーバーラタ』第12巻の形成過程の解明を目的ととしている。その目標に向け、今年度、(1)同叙事詩第12巻に含まれる膨大な「ビーシュマの教説」の導入過程の解明と、(2)人間のタイプを六種の色により価値分類する「六色説」を巡って、同叙事詩とジャイナ教文献の扱い方の相違について検討を行った。 (1)については先ず、「ビーシュマの教説」が「悲哀の除去」を目的として叙事詩に取り込まれたことを文献学的に考証した。その成果は第三回ドゥブロヴニク国際サンスクリット叙事詩・プラーナ学会(2002年9月開催)の論文集に掲載される予定で、現在印刷中である。ついで、「ビーシュマの教説」が叙事詩に取り込まれたかプロセスを検討し、その結果を、昨年7月ヘルシンキで開催された第12国際サンスクリット学会で発表した。現在同学会論文集に掲載すべく執筆中である。 (2)については先ず、『マハーバーラタ』とジャイナ教との関連について考察し、その成果を昨年7月、京都・大谷大学で開催された「ジャイナ教研究会」で発表した。この原稿は「ジャイナ教研究」の次号に掲載される予定である。さらに、「解脱法品」中に見られる「六色説」とジャイナ教のLezyA説との連関を金属学の観点から再検討し、その成果を本年3月、サンディエゴで開催された第214回アメリカ東洋学会で発表し、好評を博した。この研究は、理学部金石学の専門家と繰り返し意見を交換しつつ行ったものであり、文理の枠を超えた研究の好例として、研究者の間で高く評価されている。この成果も年内に論文にまとめ、しかるべき論集に掲載の予定である。 以上に述べたように、今年度予定していた本研究は予想以上の成果を挙げることができた。次年度は、現存「解脱法品」の基層を解明すべく、テキストの内容を詳細に分析し、同品の構造を考察する予定である。
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