I.宣講のテキストを収集して分析した。 1.日本・中国・台湾の図書館において宣講集のテキストを収集して分析した結果、清末に編集された最初の宣講集である『宣講集要』に四川総督の告示を載せ、四川の案証が最も多く、四川の方言である西南官話を用いているところから、民衆にわかりやすく説いた宣講集の編集が四川に起源することを指摘した。また『宣講集要』の後に陸続と宣講集が編纂されたが、やはり西南官話を使用しており、四川とその周辺地域での宣講が盛行したことを指摘した。 2.テキストは散文によるストーリーの解説と韻文による人物の歌唱から成っており、こうした形式は民間の評書や地方劇の形式を取り入れたこと、歌唱形式の源流は古くは『詩経』にさかのぼり、漠の「楽府」、唐の「変文」、元の「雑劇」、明の「説唱詞話」などに伝承されて現代に至っていること、歌唱形式が民衆の感情に訴える形式であったことを指摘した。 II.宣講の現場におもむいて実演を見聞し、宣講に対する理解を深めた。 1.四川・湖南ではすでに宣講は衰退したことを確認し、湖北漢川市政府の主催する「漢川善書」研究会に出席し、宣講の実演とテキストの収集をおこなった。その結果、漢川には市内と郊外に演芸場があり、そこで毎日定期的に上演をおこなっていること、家庭道徳を説く宣講が老人の嗜好にかない、老人の憩いの場になっていることをつきとめた。高齢化社会において老人の精神的娯楽は必要不可欠であり、文化遺産としての漢川善書の保存を訴えた。 2.漢川市以外では仙桃市にも宣講はおこなわれていた。しかしいずれも語り手が高齢であり、後継者の問題を抱えていることがわかった。研究会の開催と政府の支援などが必要とされよう。
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