本研究の目的の一つは、日本における「唐詩読書の歴史」の具体的把握にある。第二年目にあたる本年度は、まず、昨年度より手がけてきた「日本における杜甫詩読書の歴史」の把握のため、平安時代から現在にいたる単行本研究書・注釈書および研究者の解題を発表した。杜甫詩読書の歴史は、そのまま我が国の中国文学研究の歴史でもある。その意味で本成果は、国内だけでなく、中国の学界においても歓迎され、現在中国にて刊行準備中である『杜甫大辞典』に華訳収録される予定となった。次に白居易詩読書史方面の研究進捗状況であるが、本年度は鎌倉時代に書写された内閣文庫蔵『白氏文集管見鈔』および釈宗性筆抄『白氏文集要文抄』の目睹調査を果たした。上記二本の白氏文集本文は、平安以来の旧鈔本の系統上にあり、本研究の中心課題である近世校勘資料とも本文が一致する。特に『要文抄』については、現在その途中が切断されて東大寺図書館と正倉院(聖語蔵)とに分蔵されており、両所の本文をつなぎ合わせ、原初の形での翻刻を現在企画中である。また各所蔵者許可を得ることができたならば、原初の形に復元した影印版での公開を果たしたい。これは実現すれば中世における「読書」の実像を知ることができる面白い資料となるであろう。また、近世の『白氏文集』資料としては、昨年度の五本(尊経閣・蓬左・宮内庁書陵部・大阪天満宮・大東文化大学)に加え、あらたに新見正路旧蔵書入本である慶応大学図書館所蔵本の全巻コピーを入手することができた。来年度もその他の「書き入れ本」の調査をすすめたい。
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