本年度は、本研究プロジェクトの最終年度として、総括的な研究を目指した。 まず、「皇民化時期」の文学の総体を、皇民化-優生学の相剋の中から把握し、「血液」を切り口に日本人と台湾人の文学作品の相違点を検討した。 さらに研究のもう一つの新たな展開として、1940年代の皇民化時期に先立つ30年代を「前-皇民化時期」と位置づけることで、その連続面に着目した。この1930年代の台湾文学を、「コロニアルモダニティ」という視座から読み直すことで、従来にはなかった作品の読みが可能になったと思う。 具体的には台北の都市化に伴う大衆化現象を表現した作品を収集し、そこに描かれた「貧困」や「犯罪」を、台湾人文学者はどのように抵抗へと切り結ぼうとしていたのか、一方、日本人の側はそれを抑制するためにどのような文学的言説を構築したのかを検討した。 植民地における沖縄人をめぐっては、資料収集を継続しているが、琉球大学の公開講座として、2005年8月に「文学表現から読む沖縄と台湾-沖縄人の台湾体験」と題する報告を行った。ここでは沖縄人による台湾体験だけでなく、台湾人文学者が描いた沖縄人も論じてあり、双方の交錯する視線について考察した。
|