研究計画段階における本年度の達成日標は、大別して1)漱石による蔵書書き込みのうち、本研究の対象となる部分の確定およびそのデータベース化、およびそのデータベースを利用した書き込み時期の絞込み、2)漱石全集未収録の漱石書き込みの調査 3)英国における同時代ヨーロッパ小説への接点調査、の3点であったが、このうち(1)については、蔵書目録のエクセルによるデータベース化による対象書き込みの絞込みを行い、また全集収録の全書き込みのデータベース化作業を終えた。今後はこのデータベースを利用し、書き込みの比較照合から対象作品の漱石による閲読(書き込み)時期のさらなる絞込みを行っていく。(2)については、(1)の作業との関係から末着手、次年度の課題とする。(3)については、英国ケンブリッジ大学図書館において調査を行い、まず『吾輩は猫である』で言及されている「雑誌」について、これまで誌名未詳であったものを確定することができた。この雑誌は漱石が定期購読していたものとして、一部が東北大図書館の漱石蔵書に含まれているが、今回の調査により、蔵書所収号よりかなり以前の号から漱石が読んでいた可能性があらわれてきた。また、これにより、本研究の主題である、漱石の作家的出発における同時代ヨーロッパ小説の影響を探るためには、単に単行本のみか、雑誌収録の同時代作品にまで留意する必要があることが判明した。当該雑誌に関する知見については、できるだけ早く論文として発表する予定である。また、Jerome K.Jeromeなど漱石全集では翻刻収録されていない書き込みにも、漱石の創作観との重要なかかわりを示すものが含まれていることが分かり、東北大学図書館での調査を徹底する必要性を強く認識している。
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