二年目(最終年)となる本年度においては、初年度の成果に基づきながら(1)蔵書目録データベース作成に続いて、外国文学関係蔵書への書き込みのデータベース化を行う(2)前年度に作成した漱石蔵書目録のデータベースを利用して対象作品の閲読(書き込み)時期のさらなる絞込みを行う(3)漱石全集未収録の漱石書き込みの調査を継続することを作業課題とし、平行して(4)具体的な同時代外国文学作品への書き込みを手がかりに、漱石の作品および文学観等への影響を測る、言い換えればマージナリア研究の端緒としてケース・スタディーに着手する、という4点を研究目標とした。 (1)については、集中してアクセスによるデータベース化を行い、岩波版全集に収録されている洋書(外国文学以外のものもふくめて)への書き込みをすべてデータベース化した。(2)については、蔵書中の外国文学関連書について、英文学とそれ以外の外国文学(ヨーロッパ文学)に分け、刊行年による分析を行った。その結果、漱石が帝国大学講師等教師職を辞して朝日新聞専属作家となる1907年前後を境にして、それ以前の刊行年のものには英文学作品・研究書などが大半であったのに対して、それ以後の刊行年のものには、イギリス以外のヨーロッパ各国文学、ことに小説作品の占める割合が急増するという、顕著な変化が認められた。もちろん蔵書の刊行年と漱石の閲読時期にはずれがあり、判断には慎重を要するが、前述の刊行年別蔵書構成の変化はきわめて鮮やかであり、少なくとも漱石が作家的出発を果たした後(特に直後)においては、漱石がヨーロッパ各国文学、ことに同時代のヨーロッパ小説に強い関心を示した、ということは言えるだろう。 (3)については、東北大学附属図書館で蔵書マイクロフィルムにもとつく調査を行い、その成果に基づいて(4)に着手した。来年度の日本比較文学会大会での発表を予定している。
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