1.『林巨正』の書誌を整理し、本研究の目的である『林巨正』の作品の流れに不連続が生じた理由と作品を未完にいたらしめた原因を明らかにして、成果論文「『林巨正』の「不連続性」と「未完性」について」を執筆した。成果論文は学会誌『朝鮮学報』第195輯に掲載されることが決まっている。 要旨:『林巨正』を新聞連載中に政治事件で逮捕された洪命憙は、出獄後、社会運動が閉塞に向かっていることを認識、日本支配に対する文化的抵抗として『林巨正』に「朝鮮情調」をもりこむ方針をきめて連載を再開した。このときに作品の流れに「不連続性」が生じた。そのころ第一級の歴史資料である『朝鮮王朝実録』が復刻されて一般人も読むことができるようになり、洪命憙もこれを材源とするようになった。これは『林巨正』に再度の作風変化をもたらすとともに、彼が日本統治期末期に小説未完のままで筆をおくことになる一つの要因となった。とはいえ小説未完の最終的な理由は、日本支配への抵抗としての断筆である。連載中断後に単行本を刊行するとき、洪命憙は『朝鮮王朝実録』の記述との整合性をとるために大幅な修正をおこなった。しかし、前半部分については文学的様相があまりに違っていて修正では解決がつかず、結局、単行本にすること自体を放棄した。 2.昨年度刊行した「『林巨正』ことわざ・慣用句用例一覧」をウェッブページで公開した。 (http://www.nicol.ac.jp/~hatano/bunngaku/kyosei/kyosei6.htm) 3.研究協力者である祥明大学の姜玲珠教授と洪命憙の東京留学時代の足跡を現地調査した。
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