研究課題
基盤研究(C)
平成15年度においては、日本の児童文学史における児童文学の理想像と本作品との関連について考察に取り組んだ。子どものために大人が書く児童文学の場合の文学らしさの概念がどのような形で形成され、その過程に本作品がどのように関わるのかを、日本の児童文学研究史を考慮することで、見極めようとした。また、その際、社会における文学表現と、教育、啓蒙、報道などとの関連について、あらためて考察を試みた。また、日本国内では歴史的社会的に黒人に対する人種差別の意識が希薄であると言えるが、その中で本作品はいかに受容されてきているかということに注目して研究行った。16年度は、2度にわたってロンドンとエディンバラの図書館で関連資料にあたった。また、今日英語圏に見られる多民族状況のなかで本作品の評価の変遷をそれぞれの地域における多文化社会の成熟という観点から改めて見直した。英国に関しては、第二次世界大戦後の移民史において、アフリカ系住民とインド系住民がどのように社会に受け入れられてきたかを検討し、本作品の評価の変遷との関連をさぐった。また、最近新しい版が出版されているアメリカ合衆国における本作品の評価史を再検討した。さらに、すでに論文として発表したものを含めて、全体としてポスト・コロニアリズムの観点から本作品の歴史的意味づけと今日作品として流通する上での評価をまとめて、名古屋大学大学院国際関係研究科に学位論文「隠れた教材としての『ちびくろサンボ』-英国、アメリカ合衆国、日本における受容と評価について」として提出した。17年度においては、2005年8月にダブリンで開催された国際児童文学学会の研究大会に参加し、海外の最新の研究成果と動向を知る機会を得た。また、博士学位論文には盛り込むことのできなかったいくつかの点について、新たな資料を収集することができた。とくにニューヨーク市立図書館における資料の収集では、これまでに日本では紹介されていない新たな資料を発掘することができた。
すべて 2005
すべて 雑誌論文 (2件)
名古屋大学大学院国際開発研究科 博士論文
a doctoral thesis, to Graduate School of International Development, Nagoya University