本研究では「社会的背景と語彙変化の関連性の考察」を目的とし、北京語を基軸として近代から現代への中国語の語彙の変遷を辿り、変化とその要因との関係を調査研究する。具体的には、一.現代北京語、二.近代北京語、三.方言、四.社会と文化背景の四つの方向からアプローチを試みる。これら四つの観点から、語彙、文法用法のデータを収集し、同一語義や機能が、時代によって、どのような語彙や用法に変化していくのかという、北京語の歴史的変遷の傾向を、時間、地理、社会体制、文化などの多角的な方面から考察し、具体的な検証を進める。 そこで、今年度は、北方方言で書かれた白話資料との比較対照を通して、北方白話語彙の中の北京語の位置づけを探索しつつ、一方で、時間的範囲を拡大し、変遷の経緯及び時代毎の現代北京語との距離を明確にすることを目指した。時代を近代以降に着目するのは、現代語の源流は宋代以降の白話文に求められる為である。時代を遡るため、近代北京語の最重要テキストである『児女英雄傳』等の資料を中心に、現代北京語との繋がりを調査した。 実際には、(1)現代語との対比を考慮しながら、近代の北京語の収集・整理を行う。清代の北京語においては、『児女英雄傳』を基軸の資料とする。(2)普遍性を持つ語義や機能を基準に選定した語彙・文法事項を、同一語義・同一文法機能という観点から時代毎に単語レベルで取り出し、各々の意味・用法を明確に整理する。(3)それらを時代毎に相対的に比較する事で、同一語義・同一文法機能上の語彙・意味・用法の時間的変化を明らかにする。などの作業を行った。 8月には、中国国家図書館において、『児女英雄傳』の現在確認できる最も古い旧抄本について、撮影及び調査を行った。この調査結果は、現在、データベース化に向けて入力作業中である。 3月には、北京大学大学院中国語言文学部蒋紹愚教授に研究計画のレヴューを受けた。 この一連の作業によって、(1)全体的な語彙・文法の歴史的変遷傾向の考察、(2)近代北京語の基礎資料の収集とデータベース化という目標を達成した。
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