平成17年度は、本研究の第三段階であり、計画書に従い方言の中の北京語について研究を進めた。 概況:中国語は方言間の格差が大きく、更に民族・官吏の移動等、歴史的流動性も見られる。現在北京語とされる語彙が、他方言にも現存する等、地理・歴史的背景の考慮が不可欠である。又、物質や労働力の移動に起因すると考えられる方言の流入もみられる。そこで、調査対象の地域的な範囲を拡大し、北京語以外の資料を調査した。北京語を取り巻く言語環境を方言別に比較対照することで、語彙の方言地理的な流動性と使用分布を詳らかにし、変化の社会的な要因に迫ることを目標とした。 基準と方法は、前年度に順じ、「(1)現代語との対比を考慮しながら、近代の北京語の収集・整理を行う。清代の北京語においては、『児女英雄傳』を基軸の資料とする。(2)普遍性を持つ語義や機能を基準に選定した語彙・文法事項を、同一語義・同一文法機能という観点から時代毎に単語レベルで取り出し、各々の意味・用法を明確に整理する。(3)それらを時代毎に相対的に比較する事で、同一語義・同一文法機能上の語彙・意味・用法の時間的変化を明らかにする。」というものである。しかし、今年度は、調査対象の方向性並びに範囲が異なり、方言地図の対比に基づき、語彙・文法用法を比較対照した。具体的には、「(1)前年度に、絞り込まれた語彙について、時代毎に方言地図上での使用状況を確認する。(2)現代語は文献資料の他、平成15年度に実施した方言調査結果も参考にする。(3)過去の資料は、北京語以外で書かれた文献を用い、比較対照および分布状況を考察する。」といった方法で行なった。 資料としては、文献資料は、前年度に取り上げた資料と同時代に、北京語以外の言葉で書かれた白話文作品を用いた。書籍は、平成16年度に使用した『古本小説集成』の他、方言としての考察を加える為、新たに『現代漢語方言詞典』を活用した。また、8月に中華人民共和国の北京大学大学院中国語言文学部蒋紹愚教授から研究計画のレヴューを受けた。 その結果、前年度は北京語中心の北方方言の資料収集に留まり、相対的な客観性に欠けていたが、今年度は、北京語の歴史的変遷に対し、方言地理学的な考察を加えることで、他方言との比較から関係を探り、各時代の北京語の姿を浮き彫りにすることが可能となった。
|