「社会的背景と語彙変化の関連性の考察」を目的とし、北京語を基軸に近代から現代への中国語の語彙の変遷を辿り、変化と要因を以下の四方向から研究した。 一、現代北京語:北京語は口語に使用される上、普通話の普及に伴い衰退の方向にある。その一方で、大都市特有の社会性や文化を基盤にした新語彙も発生している。そこで、現地調査と文献資料の両面から、北京語語彙変遷研究のための基盤を整備した。 二、近代北京語:北方白話語彙における北京語の位置づけと、約百年間の変遷の経緯を明確にすることを目指した。近代以降に着目するのは、現代語の源流は宋代以降の白話文に求められる為である。『児女英雄傅』を中心として、同義・同機能上の語彙の変化データを時間軸上に集積し、全体的な語彙・文法の歴史的変遷傾向を考察した。更に、中国国家図書館や北京大学図書館、上海図書館で『児女英雄伝』の版本を調査し、校勘を行った。 三、方言との対照:民族・官吏などの移動による言語の歴史的流動性も見られた。北京語語彙"价"が、他方言にも現存する等、地理・歴史的背景の考慮が不可欠であった。現代では、物質や労働力の移動に起因する新たな方言の流入もみられた。更に、西南官話地域での方言調査も行った。 四、社会、時代背景:成果を踏まえ、近代から現代に至る「中国語の文法形式や語彙、文法の変化」と「社会体制、歴史的背景」との関係を、北京語を基軸として考察した。更に、清未の北京語官話テキスト『語言自邇葉』についても、その前段階の『問答篇』、藍本『三合語録』、『清文指要』、『初学指南』等の満濃合壁資料との対照研究を行った。 その結果、具体的な語句を通して、漢語北方方言、白話、官話、満州語、旗人語等の要素が複雑に入り組んで北京語が形成されていることが明らかになった。 また、『児女英雄伝』の版本の中でも、貴重言である抄本を研究資料として活用できるようデータベース化を行った。
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