(1)1996年に発見され、2002年春からジュネーヴ大学公立図書館で閲覧可能となったソシュールの自筆草稿の判読を早速試みたが、大きな困難にも直面した。当初は可能な限り複写資料を入手して、日本国内で生成論的観点から、加筆や削除を含めた草稿の解読・復元に努める予定であったが、ジュネーヴ滞在の際、草稿閲覧室の責任者からガリマール版『ソシュール 一般言語学の著作』には、草稿のオリジナルな状態を無視した箇所があるという問題点の指摘を受けた。実際に私が解読を試みた箇所でもそうした問題箇所が判明し、図書館側はガリマール版の順序と自筆草稿の状態との間の差異に直面して、複写資料の作成をためらっているとの説明を受けた。こうした点をめぐってソシュール研究所を組織しているS・ブーケ氏やF・ラスチエ氏と意見交換をしたが、私はあくまでも原資料に忠実な生成批評版の作成の立場を堅持して、校訂作業を続行する予定である。 (2)フランスの国立科学センター(CNRS)内の近代テクスト草稿研究所(Institut des Textes et Manuscrits modernes)で、最近の生成論的な草稿研究の動向を把握し、ソシュールの自筆草稿研究の方法論的な検討を加えた。 (3)貴重書に指定されていることの多い19世紀の言語学やガストン・パリスをはじめとする文献学に関する文献・資料の蒐集。ソシュールと同時代の人文・社会科学の動向に関する研究も一定の進展をみた。
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